すぐに相続できるチャンスがある可分債権。ただし注意点もあります。
現在の法令では、金銭などの可分債権は、遺産相続にあたってはとりわけスピーディーに処理することが認められています。家や土地のような分割しにくい財産とはまったく違い、早ければ相続がはじまったその日にもう受け取れる可能性もゼロではありません。
とはいえ、実際に受け取るにあたっては知っておかないといけないポイントがあります。金銭のような可分債権の実態を観察することで、その部分も詳しく理解できます。
可分債権とは? 相続の際、どんな財産を意味するのか?
「債権」とはよく耳にする言葉ですね。ところで具体的にはどのような意味でしょうか?
法律上の債権の定義は、他人に対して特定の行為を履行することを請求できる「権利」となっています。債権は、よく財務に関して語られる言葉ですが、実際に金銭上の権利を意味することが多いですね。
それでは「可分債権」とは何でしょうか。債権には実は「可分債権」と「不可分債権」があります。
1.可分債権
他人に現金を貸した場合を考えてみてください。
たとえば500万円貸していれば、その借り手に対して500万円分の債権があることになります。その債権をいくつかに分けることは、全然難しくありません。金銭を介した債権は、しばしば可分債権の典型とみなされます。
遺産相続の現場においては、以下のような財産が可分債権と定義されます。
- 預貯金(ただし、定額郵便貯金は除外)
- 他者への債務・貸金
- 損害賠償金
……etc.
※定額郵便貯金は、法令により分割が禁じられています。このため他の預貯金とは扱いが異なります。
2.不可分債権
家を、ふたりの共同名義で購入した場合を考えてみてください。
何か事情があって、その家を分けたくなった場合、そのままでは分けられませんね。こうした場合、家の買い手ふたりは売り手に対して、不可分債権を持っていることになります。
遺産相続の現場においては、以下のような財産が可分債権と定義されます。
- 不動産
- 動産
- 有価証券
- 投資信託
- 現金
- 定額郵便貯金等
……etc.
※被相続人の遺した現金が室内等から出てきた場合、
「金融機関の預貯金と同じように可分債権で、すぐに処理できる」と誤解されがちです。
しかし実際には動産の一部として扱われ、不可分債権に含められます。
可分債権を現実に、素早く処理したい場合に必須の知識
可分債権は法の下で、「共有されない財産」と定義されています。
したがって相続開始と同時にスピーディーに分配してしまっても、法律上いっこうに問題はありません。
※この扱い方については、最高裁判所の判例でも認められています。
今の日本では金銭などの可分債権が発生したら、相続開始とともに迅速に分割・承継を行うべきと一般的に考えられているのです。
ただし、可分債権の処理を現実に進めるにあたっては、ちょっとした難関があります。これは銀行の預貯金を引き出したい場合に役立つ知識です。
確かに、金銭の可分債権であれば自身の持ち分はすぐにでも処理してかまわないのですが、銀行に被相続人の預貯金の払戻請求を行っても応じてくれないことが大半です。
これは銀行に、「遺産相続によるトラブルに巻き込まれることを避ける」という思惑があるためで、相続人全員の実印や印鑑証明を添付して払戻請求をするか遺産分割協議書を提出する必要が出てくることがほとんどです。
つまり、銀行口座に入っている自身の相続分をすぐにでも使いたい場合は、他の相続人と協力することや、法律の専門家の手を借りて書類作成をすることが大切なのです。
金銭のような可分債権を、あえて共有財産にする場合もあります
相続人同士で協議して、あえて「金銭債権を共有財産に含めて、それから相続内容を話し合うように持っていく」という手を使うこともできます。これは相続につきものの人間関係の破たんを避けるために、よく使われてきた手段です。
たとえば、遺産の内容が幅広い場合を想像してみてください。
- 不動産のような、公平に分割することが困難な共有財産
- 預貯金や金銭債権のような、典型的な可分債権
以上の、まったく異なる財産が遺産に含まれているとします。
こういったパターンでは、不動産があるために、相続人の間でアンバランスな遺産分割が行われてしまうことが往々にしてあるわけです。しかし、不利な立場になった相続人に対して、金銭を多めに渡すことでその埋め合わせをすることも不可能ではありません。
実際にこうした目的のために、金銭債権を共有財産に含めて分割するケースは珍しくないのです。
もちろん、このやり方も万能ではありません。それに、慎重な判断やシミュレーションを行ってから実行に移さないと、大きな間違いをしでかす恐れがあります。
しかし、相続問題に詳しい法律事務所の判断を聞き入れながらやっていけば、成功率はがぜん高くなるでしょう。
「すぐ相続できる可分債権」。しかし、実際の相続する際は大局的な判断が必要です
可分債権が遺産に含まれている場合は、「すぐに使いたくなる!」という意見はきっと相当に多いことでしょう。しかしスムーズに受け取るには、適切な対処が必要ですし、共有財産に含めたほうがいい結果になることもあります。
いずれにしても、いい結果に恵まれたい場合は正確な法知識が欠かせません。ご相談いただければ、最適なやり方をご提案させていただきます。